
今回弊社で3年間勤務してくれた特定技能の外国人社員が退職し、本国へ帰国することになりました。本人から「日本で支払っていた年金は戻ってくるのか?」と聞かれたのですが、人事としてどのような手続きや案内を行えばよいのか分かりません。「脱退一時金」という制度があると聞いたのですが、慌てずに対応するための必須要件や現場での注意点を教えてほしいです。

ご質問ありがとうございます。
結論から申し上げますと、外国人社員が日本で支払った年金は「脱退一時金」として受給することができます。しかし、この手続きには「日本を出国していること」「年金の保険料を6ヶ月以上納めていること」など、クリアすべき4つの必須要件があります。
これまでは「退職後の手続きは本人任せ」「帰国後に本人が勝手に申請するもの」と、人事側が深く関与しないケースも見られました。しかし、昨今外国人雇用のコンプライアンスや、退職時の円満なオフボーディング(退職プロセス)への意識が高まっており、企業側の正確なアナウンスが求められています。
この記事を読んでいただいている人事担当者の方の中には、もしかすると「これまで帰国した社員の手続き、本当に大丈夫だったかな……」と不安に思われた方もいらっしゃるかもしれません。現場の担当者様にとっては、退職届の受理から出国のタイミング、さらには帰国後のフォローまで、スケジュール管理を含めた実務の負担やプレッシャーは大きいものです。
まずは、慌てずに手続きを進めるための必須要件と、人事が絶対に知っておくべき基本ルールを一緒に確認していきましょう。
1.年金の脱退一時金制度の基本ルールと申請漏れのリスク
外国人社員が日本国内で企業に雇用されて働く場合、日本人と同様に「厚生年金(および国民年金)」への加入と保険料の納付が義務付けられています。しかし、将来日本で年金を受け取る前に帰国してしまう場合、掛け捨てになってしまうのを防ぐための救済措置として設けられているのが「脱退一時金」の制度です。
これまでの「本人が調べるだろう」というスタンスでは、手続きの期限切れや書類不備によるトラブルを招きかねない時代だからこそ、企業側のサポート体制が求められます。具体的にどのようなリスクがあるのか、基本的な運用と案内を怠った場合の影響を表にまとめました。御社で退職予定の社員様は、これらの要件やリスクをクリアできそうでしょうか? ぜひチェックしながらご覧ください。
| 項目 | 脱退一時金手続きの基本ルール | 案内・手続き漏れ時のリスク(ペナルティ・トラブル) |
|---|---|---|
| 申請期限 | 日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求が必要 | 期限を1日でも過ぎると受給権が消滅し、1円も戻らなくなる |
| 受入れ企業への影響 | 企業への直接的な法的罰則はない | 退職時の説明不足による不信感、外国人コミュニティ内での「不親切な会社」という評判の拡散 |
| 本人への影響 | 納付期間等に応じたまとまった一時金が支給される | 数十万円〜数百万円単位の資産を損失し、日本への就労に対するイメージが悪化する |
| 税金面の注意点 | 厚生年金の一時金には20.42%の源泉所得税が課される | 帰国後に税金が引かれていることに本人が驚き、企業へクレームや問い合わせが入る原因になる |
2.人事が絶対に知っておくべき「4つの必須要件」と「5つの必要書類」
人事担当者の皆様が、実務において外国人社員から相談された際に必ず確認すべき「4つの必須要件」と、申請に必要な「5つの必要書類」について詳しく解説します。
外国人社員から相談された際に必ず確認すべき項目となります。
▼「4つの必須要件」
- 日本国籍を有していないこと
- 公的年金(厚生年金または国民年金)の被保険者期間の月数が合計6ヶ月以上あること
- 日本国内に住所を有していないこと(転出届を提出し、住民票を抜いていること)
- 年金(障害手当金を含む)を受ける権利を有したことがないこと
本人が帰国後に日本年金機構(送付先は千葉県千葉市のセンター)へ郵送する書類です。
▼「5つの提出書類」
- 脱退一時金請求書(各言語の様式が日本年金機構のHPからダウンロード可能)
- パスポートの写し(「顔写真ページ」「最後の出国日・在留資格が確認できるページ」等)
- 帰国後の本人の銀行口座を確認できる書類
(銀行名、支店名、口座番号、本人名義が確認できる通帳や口座証明書など) - 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 住民票の除票の写し(または転出届の控え)
(マイナンバー保有で省略可能なケースもありますが、確実を期すために準備を推奨。)
【行政書士からの実務アドバイス】
多くの現場で発生するのが、「外国人社員が市役所に転出届を出さずに帰国してしまい、日本国内に住民票が残ったままになっているため、帰国後に脱退一時金の申請が却下される」というケースです。
もし「すでに本人が転出届を出さずに帰国してしまった!」という場合でも、まだ諦める必要はありません。日本年金機構への請求書提出の前に、本国から日本の市区町村役場へ郵送で転出届を提出(転出届の郵送請求)すれば、後からでも要件をクリアすることが可能です。
3.人事・組織としての退職・帰国対応プロセス
現場の人事スタッフの皆様が、外国人社員の退職・帰国時にパニックにならず、円滑に脱退一時金の手続きへ導くための準備として、下記の5ステップを進めていきましょう。
| ステップ | 対応内容 | 現場でのチェックポイント |
|---|---|---|
| ① 納付期間の確認 | 本人の年金加入期間が「6ヶ月以上」あるか確認。 | 給与明細の控除履歴や年金定期便などで、要件を満たしているかチェックする。 |
| ② 転出予定日の特定と届出指導 | 市区町村役場への「転出届」の提出日を確定。 | 出国前に必ず役所へ行き、転出届を出して「住民票を抜く」よう本人に強く指導する。 |
| ③ 必要書類のアナウンスと手配 | 脱退一時金請求書の印刷と、必要書類の確認。 | 帰国後に本人がスムーズに動けるよう、本人の母国語版の請求書様式を印刷して手渡す。 |
| ④ 所得税の還付手続き(納税管理人の選任)の説明 | 源泉徴収される20.42%の税金の還付方法を説明。 | 厚生年金の場合、引かれた税金は日本国内の「納税管理人(友人や元会社など)」を通じて還付請求できる旨を伝える。 |
| ⑤ 資格喪失手続きと出国見送り | 会社側での雇用保険・社会保険の資格喪失届の提出。 | 出国日の翌日から14日以内にハローワーク等へ届出。本人には「帰国後に日本年金機構へ書類を郵送する」よう最終確認する。 |
4.おわりに
今回の「年金の脱退一時金」の手続きは、一見本人が行うプライベートな手続きのように思えます。しかし、現場で真面目に外国人雇用に取り組んできた人事の皆様にとっては、企業のコンプライアンスを守り、これまで貢献してくれた外国人労働者の権利を最後まで守るという、非常に専門性の高い重要なオフボーディング業務です。
一方で、退職する外国人の手続きを「本人の自由だから」と放置していると、帰国後に本人から「年金が戻らない」「税金が多く引かれているのはなぜか」といった連絡が入り、対応に追われるという経営上のリスクを抱えることになります。「もし、近々帰国する予定の社員がいるならば、今のうちに年金手帳や口座の準備を促そう」「もし、既に帰国してしまった社員から問い合わせがあるなら、今すぐ郵送での転出手続きなどを案内しよう」と、先手先手で動くことが何よりも大切です。
まずはご自身が担当している外国人社員の退職・帰国予定を今一度整理し、対象の社員様と、今後の「年金手続きや転出予定」について、今のうちから前向きなコミュニケーションを取っておくことを強くお勧めします。
- 自社で用意すべき説明資料の基準がわからない
- すでに退職した社員から問い合わせが来てしまい焦っている
脱退一時金の手続きや、自社の外国人雇用・退職体制の点検について少しでもご不安な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。



